gait extension
~歩行を拡張する~
10:00~12:30
舟波真一先生
(ふなみしんいち)
諏訪赤十字病院
理学療法第1課長補佐
【学歴】
日本福祉大学大学院 博士前期課程(久保田競教室) 修了
【専門】
専門理学療法士ー神経系領域
【書籍】
◆臨床実践 動きのとらえ方 何を観るのかその思考と試行
山岸茂則(編):文光堂
◆実践MOOK・理学療法プラクティス 運動連鎖~リンクする身体
山岸茂則(ゲスト編集):文光堂
◆運動連鎖から見た投球障害:【特集】運動連鎖に関する基礎知識
運動連鎖の神経メカニズム
臨床スポーツ医学2012年1月号(29巻1号)
山岸茂則先生
(やまぎししげのり)
飯山赤十字病院
リハビリテーション第一係長
【専門】
専門理学療法士-運動器領域
日本体育協会公認アスレティックトレーナー
呼吸療法認定士
糖尿病療養指導士
福祉住環境コーディネーター(2級)
【書籍】
◆臨床実践 動きのとらえ方 何を観るのかその思考と試行
山岸茂則(編):文光堂
◆実践MOOK・理学療法プラクティス 運動連鎖~リンクする身体
山岸茂則(ゲスト編集):文光堂
◆生活機能障害別・ケースで学ぶ理学療法臨床思考
嶋田智明(編):文光堂
◆実践MOOK・理学療法プラクティス 膝・足関節障害
嶋田智明・他(編):文光堂
New Translation ~Symphonic Gait~
【講演アブストラクト】
およそ40億年前の奇跡,それは外界と個を隔てる膜の形成…細胞の誕生だろう.その細胞の軌跡が人類の歴史といえる.膜の形成はどのようにして行われたか?については,生命誕生の神秘であり,解明はされないであろう.しかし,水中の分子同士が無秩序に振る舞う中で,重力という法則のもと,ある一定の「リズム」を刻みはじめ,引き込み合って自ら組織化していった,と太古に想いを馳せることは我々人間の特権である.
ヒトらしい活動である「歩行」は言葉では説明しつくせないほどに巧みであり,高度に統合されている.ロボットは徐々に人の動きに近づきつつあるものの,依然としてヒトのような滑らかな動作を遂行することはできていない.しかし,もしロボットが,弾性をもった組織によって非常に多くの分節的構造をなし,それを全体的に覆う筋膜を有し,必要に応じて時に単純に時に複雑に振る舞う神経系のようなシステムを有していたならば…おそらくは非常に円滑な動作が可能になるのではないだろうか?
今回は,バイオメカニクスの観点から観察・説明できる歩行を,神経科学・発生学・非線形力学・運動器連結を含む構造・ヒトの左右特異性・感覚入力位置特異性などの観点と関連性を持たせながら統合的に説明し臨床への示唆としたい.身体・中枢神経系・環境が神経振動子の介在によって大域的に引き込みあい自己組織的に運動生成されるという考え方であるGlobal Entrainmentを,我々独自にさらに発展させた理論「Integrative Organaization」を中心に歩行を拡張していく.そして,「歩行」は地面とカラダと神経の協奏曲であるという新訳を提唱する.
はじめにリズムありき - ハンス・フォン・ビューロー
13:30~16:00
山本澄子先生
国際医療福祉大学
ロッカー機能からみた片麻痺者の歩行と短下肢装具
<大項目>
1.歩行分析
2.片麻痺者
3.ロッカー機能
4.短下肢装具
【講演アブストラクト】
歩行を知るための基礎バイオメカニクス
健常者の歩行とロッカー機能
片麻痺者の歩行の特徴
短下肢装具による歩行の変化
健常者の歩行の特徴である立脚期のロッカー機能は、効率のよい歩行のために重要な機能である。
立脚初期の踵ロッカー、中期の足関節ロッカー、後期の前足部ロッカーによって前方へのなめらかな重心移動が可能となる。
片麻痺者の歩行では立脚初期の踵接地が困難な場合が多く、踵ロッカーにおける麻痺側への重心移動が阻害されやすい。
そのため、これに続く足関節ロッカー、前足部ロッカーが行われず、結果として立脚中期から後期にかけて
重心の前方移動が困難となる。3次元動作分析によって、片麻痺者の歩行の特徴を重心の動き、床反力と床反力作用点、関節モーメントなどで示すことができる。
近年、片麻痺者の歩行補助のための短下肢装具として、油圧ダンパーを使用して麻痺側の踵ロッカーを補助する装具(AFO-OD)が開発された。
3次元動作分析の結果より、AFO-ODは足関節ロッカー、前足部ロッカーを含む歩行1周期を改善することが明らかになった。
ロッカー機能の考え方で片麻痺者の歩行を見るためのポイントについて解説する。
最近、歩行中の油圧ダンパーによる補助力をリアルタイム表示する装置が開発された。この装置は装具を使用した歩行練習の際に視覚フィードバックとして利用することができる。今回はこの装置のデモンストレーションと使用方法についても述べる予定である。
10:00~12:30脇元 幸一先生
清泉クリニック整形外科
スポーツ医学センター施設長
東海大学 医学部 基礎医学系分子生命科学 研究員
国立電機通信大学産学官連携プロジェクト人間工学共同研究員
信州大学医学部大学院医学研究科共同研究員
歩行機能動力源の探求~歩行は体幹で完成している~【アブストラクト】
脳の歩行制御システムの一端を運動力学の観点から推察すると、物理学ルールに沿った制御であることが分かる。図①に「ニュートンの第三法則」を示す。運動が成立する際には、機能的な「作用力エネルギー(FベクトルA)」の発生と同時に、同量の機能的な「反作用力エネルギー(FベクトルB)」の吸収がある事を示している。これを歩行運動に当てはめると、歩行中筋張力が生み出す運動エネルギーとヒト質量が有する位置エネルギーが合算し、作用力エネルギーとなって身体を動かす。同時に反作用力エネルギーを吸収する機能が発揮され、初めて「歩行運動」が成立するのである。歩行動作が姿勢変化の連続であることを考えると、スムーズな作用力エネルギーを生み出す身体力学的姿勢と効率的に反作用力エネルギーを吸収する身体力学的姿勢を「同期」した姿勢制御の連続が歩行動作ということになる。その姿勢制御ルールでは、姿勢が有する反作用力エネルギー吸収量を超えた作用力エネルギーは発揮されない。つまり歩行中の脳の筋出力決定には、反作用力エネルギー吸収機能状態が常に反映されていると考えられる。これは、筋出力抑制を改善するには、まず身体全体の柔軟性(物質柔性)の回復が必要であることを示唆している。
次に歩行荷重痛をニュートン力学で考察してみる。痛みを感知する神経終末・受容器は、炎症産物による化学的エネルギーと、機械的振動エネルギー、熱エネルギーに反応する。先ほどの図①中の「反作用力エネルギー(FベクトルB)」を、「吸収された反作用力エネルギー(FベクトルB1)」と力のエネルギーとして吸収されずに「機械的振動エネルギーに変換されたもの(FベクトルB2)」に分解してみる(図中②)。痛みはこの「FベクトルB2」によって発現するとすれば、「FベクトルB1」量を大きくすることで痛みが軽減することが分かる。つまり身体柔軟性を上げると歩行時の痛みは減り、加えて筋力が回復し、筋による関節制動向上に伴う可動域改善も期待できると仮説が立つ。
歩行の進化は、Darwinの進化論から伺われるように、少ないエネルギー産生で大きな運動エネルギーを生む身体剛性とそれを吸収する身体柔性を高め、身体を速くそして遠くへ移動させるという方向性を持つ。つまり、少ない筋張力エネルギーで姿勢を保ちながら動作に必要な作用力エネルギーを生む、かつ反作用力エネルギーを吸収できる身体力学的環境を同期させながら歩行動作を成立させるという、エネルギー効率の向上が歩行制御システム進化の方向性であることが分かる。
以上を治療学へ発展させると、歩行動作の改善には筋活動による全身関節適合性の維持(身体剛性)と、反作用エネルギー吸収のための柔軟性(身体柔性)の維持を目的とする身体力学的アプローチの研究開発が望まれる。
具体的には、歩行動作治療は、歩行姿勢修正を可能にするために十分な可動性(mobility)を回復させることにある。つまり身体柔軟性の向上は、柔性回復による筋出力(作用力エネルギー)抑制の改善につながり、これは広い関節可動域にわたって筋による関節適合性の向上につながる。
以上のように、脳の歩行制御システムは、物理学ルールをそのまま反映した「能動システム」に常にコントロールされており、動作に必要な筋力と関節可動域はこれにより決定される。 つまり、「筋力」は体の力学的環境に合わせて常に「筋出力抑制」を受けていること、力学的エネルギー伝達可能な関節可動範囲がROMであり、関節が伝える力学的エネルギーの大小でROMは容易に変化すること、さらに拘縮や変形が身体力学的環境を整えていく上での「生体順応反応」である仮説も今後検証できていくであろう。
活動:日本体操協会 アンチドーピング委員会
日本クレー射撃協会スポーツ医科学委員会 常任委員
女子体操競技JOCトレーニングドクター、トレーナー
新体操医科学サポート委員、JOCトレーナー
「理学療法学」編集委員
13:30~16:00
石井慎一郎先生
神奈川県立保健福祉大学
歩行に必要な運動機能の作り方
直立二足歩行の実現に重要な機能をどのように理学療法場面で構築していけばよいか?
その理論と実際を紹介したい。