■研修会報告



脳卒中片麻痺に対するニューロリハビリテーション

森岡周先生
畿央大学大学院健康科学研究科 研究科主任・教授
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長

~神経科学から考える脳卒中後の運動障害に対するリハビリテーション
−科学的知見の解釈から生まれる臨床の方向性−~

■【研修会後記】



・ニューロサイエンス(ニューロイメージング研究成果)と連携したリハビリテーション介入
・損傷後の神経機能回復の促進を目的にした介入

<脳の修復>
定義:脳の修復は、脳損傷後の構造や機能における回復のいくつかの側面であり、自然的または治療に導かれる過程である。

<ニューロリハビリテーションの治療における要点>
1. 治療量
→麻痺側の使用頻度を上げる。
2. 豊かなリハビリテーション環境 
→人とモノに触れ合う環境の設定。変化のある環境を設定すること。
3. 課題指向型訓練
→意図をもって実生活で行う課題を訓練すること。課題は挑戦的であり、漸進的に調節され、自動的な関わりを伴うものである。
4. 段階的な難易度設定 
→我々が難易度を調節し、患者様がその課題に対してどうクリアしていくかを考えていく必要がある。ドーパミン神経細胞は「行動を起こすときに得られる期待される報酬の量」と「行動を取った結果、実際に得られた報酬の量」の誤差に応じて興奮し、興奮の度合いに比例して、行動を起こすのに関与した神経結合のシナプス伝達効率を向上させる。
5. フィードバック
6. チーム医療

<急性期の特徴> 
・残存皮質脊髄路の興奮を向上。
・残存皮質脊髄路の興奮性は急性期から急速に減衰して3か月で消失する。
・この残存皮質脊髄路の興奮性の減衰には、ワーラー変性が関係する。

<急性期で推奨される治療とは?>
1.残存皮質脊髄路への興奮性刺激
 【半球間相互作用メカニズム】
損傷半球の興奮性を維持しつつ、非損傷半球の興奮性をコントロールする。
麻痺側の残された機能を維持すること。どこの感覚なら残存しているか、どの環境なら動作が可能なのかを我々は探索していく必要がある。
2. 早期のリハビリテーション
3. 廃用症候群の予防
 ※感覚入力の重要性
 扁桃体を中心とする負の情動(恐怖)は、ダークニューロンの発生をまねいてしまう。

<回復期の特徴>
・皮質間の新しいネットワークの興奮性に依拠する。
・3カ月をピークにこのメカニズムの再構築が起こる。
・皮質間の抑制が解除されることによって、代わりの皮質ネットワークの再組織化が構築され、残存皮質脊髄路の機能効率を最大限に引き出すよう機能する。
・この脱抑制メカニズムは6カ月までに消失する。

<回復期で推奨される治療とは?>
1.皮質間ネットワーク結合を促進(6カ月)
2.皮質間抑制の解除が起こり、皮質ネットワークの再組織化が開始。
運動を計画し、運動の提示・感覚を統合させるよう、神経再構築のまとめを行う。どういう状況で、どう動けばよいのかを我々が提示する。能動的な運動時に「シナプス前抑制」が起こる。これは運動開始前から認められ、大脳皮質の機能がそれを引き起こしていることが明確。
・ミラーニューロンの活性化
自己がどう動いているかを、難易度や注意を絞って提示する。自分が運動しているかのような錯覚を起こすことで、運動前野が働く。シュミレーション・イメージ化しやすい提示を行う。


<維持期の特徴>
・リハビリテーションによって引き起こされたシナプス伝達の効率化
・回復期で再構築された代替ネットワークのシナプスが強化される段階
・運動出力ネットワークを効率的に使用できるようにする。

竹林崇先生
兵庫医科大学大学院 医科学専攻 高次神経制御系 リハビリテーション科学副主任技士・兵庫医科大学大学院 医科学専攻 高次神経制御系 リハビリテーション科学

学習を基盤とした上肢機能訓練
―課題指向型訓練とTransfer Package―

■【研修会後記】



課題指向型訓練
もっとも重要なことは、麻痺側の機能を改善させることではなく、麻痺手の【行動】を変容させることが重要
対象者が達成感や目標を実現できる訓練が大事。達成感や目標実現が報酬となる行動変容には報酬が重要。

USE depend 麻痺側を適正に使うことが非常に重要になってくる

課題指向型訓練実際の生活動作に近い課題を用いた訓練
成功体験がよりリアルに再現されやすいという利点
⇒実際の生活で用いる経路で訓練を行う。

課題指向型訓練
Shaping 
⇒作業の手段的利用、主に麻痺手の機能向上させる訓練

Task Practice 
⇒作業の目的に利用、実場面の動作を想定して、直接的実際的な訓練

課題の決め方
運動方向のレベルで大まかに分析することが大事。分析をミクロな部分でみすぎると、全体像が見れなくなってくる。

課題指向型訓練において、「動作分析」「難易度調整」は重要なポイント。この2つをおさえれば適切な課題指向型訓練は実施できる。

課題指向型訓練はTrial&Errorが基本であり、難しすぎても簡単すぎても学習は進まない。課題の成功を6割にする訓練の設定が大切。失敗体験が多すぎると「行動」を抑制してしまう結果になる。

学習の干渉を予防するために運動技能の干渉を考慮した運動学習のスケジュールが重要。同じ課題でもランダムに実施するように心がける。また課題が変わるタイミングの声掛けが重要である。