【講師】
森岡周 先生
(畿央大学大学院 健康科学研究科研究科 主任・教授)
<アブストラクト>
この講演では、右脳損傷後に特徴づけられる左半側空間無視、身体失認、左脳損傷後に特徴づけられる失行の神経メカニズム、評価、そしてリハビリテーション戦略の実際について取り上げます。
例えば、左半側空間無視を呈した症例のすべての方々に同じ治療を介入していませんか? ADL上の左空間を意識させ、気づきを与える戦略とか。もちろんこれで効果を示すケースもありますが、タイプによっては機能代償となり、逆に右空間に対する注意機能を低下させたり、疲労を増強させてしまうことがあります。
近年、脳科学の視点に基づき、半側空間無視をサブタイプに分類し、治療をそれぞれのタイプにあった形で提供すべき提案・試みがはじまっています。本講演では、半側空間無視・身体失認をサブタイプに分類する評価、画像診断、そして科学的視点にたった治療戦略(意識を顕在化させる方法とさせない方法)について解説します。
他方、失行症を呈した症例に対しても、ADL動作を繰り返し練習するのみの介入に頼っていませんか?同じように、この練習によって道具操作能力が改善するケースもあります。しかし、タイプによっては、エラーばかり起こさせることで学習(機能回復)を停滞させてしまうことも示唆されています。
脳科学は道具操作能力の神経ネットワークを明らかにしてきました。今回は失行症をそのネットワークからサブタイプに分類し、それを明らかにしていく評価手続きならびに治療戦略を行動レベルで解説していきます。
医療に携わる人々の知識と思考能力が、これら高次脳機能障害の回復に影響することを本講演から気づいてもらえれば幸いです。