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建内 宏重先生





「股関節機能障害と歩行」

京都大学大学院  
建内 宏重先生


~歩行における股関節機能~






 足部の上で下肢が前方へ回転していく際に、骨盤・体幹を直立位に保つ。股関節伸展筋群の作用は、遊脚終期に下肢の動きを制御して立脚の準備をすることと、下肢に荷重するときに骨盤・体幹の前方への動きを制御する。股関節外転筋の作用は体重により生じる反対側骨盤の下制を制動する。股関節屈筋群は下肢の遊脚を行うが、その作用は大きくない。


~THA術後患者の歩行分析~






 THA後の歩行は術前の歩行の影響を強く受ける。術後数年が経過しても歩行障害は残存する。股関節伸展角度の減少により膝関節屈曲角度増加、股関節屈筋パワーの減少により骨盤前傾、体幹傾斜角度が増加する。















~股関節機能障害に対する評価・治療のポイント~




 股関節機能障害に対する評価・治療のポイントとして3つ挙げられた。それは股関節の安定性と可動性、股関節への外力の制御、股関節と他部位との関連性がポイントと先生は言われる。もっと細かくみていくと、股関節の安定性と可動性は関節のポジションと適合性、股関節周囲筋のバランス(筋活動性・筋伸張性)、股関節不安定性。股関節への外力の制御は静的・動的な脊柱・骨盤・股関節の位置関係(外的モーメントアームと関節接触面積)。股関節と他部位との関連性は運動連鎖、各種姿勢・動作における身体各部位の機能的な相互関係だそうだ。

















~股関節の不安定性~




 通常であれば、不安定にはならない。しかし、筋のバランスが崩れれば関節面に何らかの影響を与えてしまう。
その状態にあった評価が重要。例えば、骨頭が前方にずれ、動作時に鼠径部痛がある症例なら前方から骨頭を圧迫してあげて疼痛の変化があるかどうかなど細かくみる必要がある。
 臨床でよくみる矢状面状だけのROMex。矢状面状だけで動かしても生理的な動きではない。
股関節には適応(安定)面が存在する。ただ屈曲・伸展しても関節面にとってみれば強引に動かされているだけ。適合性の高い股関節のポジションは約60度屈曲位である。適合性を高めるには前捻角と骨盤アライメントが影響している。健常者の場合、股関節可動域や前捻角の特性に合わせて骨盤を回旋させ臼蓋と大腿骨頭との適合性を維持している可能性がある。しかし、股関節可動域や前捻角に対して骨盤が適切にアライメントされていない場合には、股関節の適合性を悪化させる可能性がある。








~講義を終えて

 先生は大学院研究科所属だけに講義内容は研究結果や数値が多く含まれており、臨床に所属している者にとっては新鮮であり、先生方が行なった研究結果から実際に臨床で患者様にアプローチするのは私たち臨床家である。新たな知見やデータを披露してくれる先生の講義、その先生の想いも私たちが現場に伝えていかなければならないのではないだろうか。 

文責 田中聖也







国中 優治




変形性膝関節症の歩行分析
~遺体解剖学的所見から推論する~



九州中央リハビリテーション学院  
国中 優治



~膝OAにおける構築学的変化~




 一般的には、荷重を繰り返していくことで大腿骨と脛骨の関節面が摩耗していくと考えられがちであるが、遺体解剖学的な所見から考えると、パテラと脛骨の関節面から先行してOA changeが発生していく推論する。
 骨棘などの構築学的な変化を徒手にて触知し、どの角度でストレスがかかっているかを把握することができれば、ADL上でのどの動作がどの角度のときに負担をかけているかがわかる。そうなることで、おのずと治療すべき部位がみえていくように考える。


~高齢者の姿勢制御を理解する~


 膝関節疾患の理学療法の対象は、約9割が高齢者となる。そういった中で理学療法を実施していくためには、高齢者特有の姿勢や動作を理解しておく必要がある。
 胸椎後弯の増大→骨盤後傾
 胸椎後弯の尾側化→膝関節屈曲
重心の後方下が生じていることで膝にどういった変化が生じているかを把握していかなくてはならない。その考え方の一例として、力学的に骨盤傾斜角の変化に伴う膝までのモーメントアームの変化を出していけば、膝にかかる負担は変化するということになる。
膝のストレスを考えていく上で、骨盤帯や力学的な視点は切っても切り離せない特に重要な項目となっているであろう。














~膝OAの予防を脳科学から考える~

  キーワードは視覚探索と体性感覚の誤差を修正していくことである。
 高齢者は体性感覚を優位に用いて、手で何かを触りながら動作をしようとする傾向にある。運動のイメージがうまく作れないためにそういった現象が生じているのだと考える。
 動作の前にどういった流れで動作を行うかを、視覚的な情報からイメージしていくことで動作がスムーズなものとなる。






~踵で接地することの重要性~




 膝OA患者の歩行をみていくと、骨盤後傾位で足底接地をしている方が多く、同時に膝屈曲位となっている。踵で接地するメリットを考えたときに、対側の股関節伸展が慣性力として出現してくることや、lateral thrustの軽減につながると推論し





















~講義を終えて~



 動作に対する力学的な分析と徒手的な評価をマッチさせていくことが臨床上ではすごく難しい作業だと感じる人も少なくないように感じます。荷重関節である膝関節においては特に力学的なストレスから受ける影響が大きくなっていくため、理学療法初期評価の正当性が非常に重要となっていきます。一歩間違えると、逆に負担をかけてしまう動作を反復して練習していることもあるかもしれません。
 局所と全体をマッチさせていく過程をデモンストレーションを加えながら講義され、参加者の皆様にも非常にわかりやすい内容となったのではないかと感じます。



上島 正光 先生




「とにかく触る! 足部からのアプローチ」


ハーベスト医療福祉専門学校
上島 正光先生



~足指グリグリメソッド~





 理学療法を行う上で足底感覚の重要性が古くから報告されている。唯一地面に接地する部分であり、その感覚入力が適切に入ってこないことにはうまく重心を制御することはできないし、足底に刺激を入れることで動作が変わることも多々観察できる。
 その1例として、足指をグリグリと触っていき、1つ1つの指の感覚を開眼~閉眼~質問形式と段階づけて感覚入力を入れていくと、歩行が変わる人もいるし痛みがとれる人もいる。どの程度感覚入力が関与しているかは不明ではあるが、何かしらの関与はしているのであろう。



~ファンクショナルリーチテスト(FRT)~



 検証Ⅰ
 足指の運動前後のFRTの差を計測していき、①運動前、②足指グリグリ、③ビー玉つまみの3パターンでどれぐらいの差が出てくるかを検証した。結果として③→②→①の順で
リーチ動作が改善した。
感覚入力と運動が混同する③の運動が良好な結果を生み、感覚入力としての②の運動が次いで良好な結果となった。やはり、重心移動にとって足部の重要性は高いであろう。

 検証Ⅱ
 靴下の変化によるFRTの差を計測していき、①普通の靴下、②5枚重ね履き、③5本指靴下を履いた上での差を検証した。結果として③→①→②の順でリーチ動作が改善した。しかし、③と①に有意な差はなく、一般的に良いとされている5本指靴下が特別に良いという結果とはならなかった。
推論の域を超えないが、5本指靴下で内側の感覚入力が入ることが重心移動に対してそれほど大きな意味をもたらさないような感じがする。





~第1列の機能~





 足部の機能を考えていくと前足部と後足部に分けることができ、その中でもモーメントアームの長い前足部に着目した。歩行時の足の介入としては、立脚後期でいかに滞空時間を稼ぐのかが重要となるため、しっかりと第1列の動きを作っていく必要がある。
 第1列の機能として、立脚中期の後半から回旋系の作用と前後系の作用がある。1列の底・背屈だけで上部の膝や股関節・骨盤などは連鎖的に変化がみられてくる。底屈・背屈ともに作用の違いがある。例えば、母指の屈筋が使いやすくなることや、荷重を母指球にのせることなどが可能となる。
 テーピングを用いて評価・治療していくことは有用であり、立脚後期だけでなく、様々な動作で応用が可能となる。









~講義を終えて~

 「そう言われると気になるな」というような、さまざまな日常での疑問を検証していき、足部の機能をわかりやすく説明して頂きました。流暢な喋りに参加者も引き込まれていき、
参加者を退屈させないような工夫を随所にされている細かい気遣いにも驚かされました。
 足部の感覚入力をどのようにしていくか、足部の機能をどのようにみていくか、などのさまざまなヒントを得たように感じる講義でした。





湯田 健二 先生  




「変形性股関節症の歩行特性と術後理学療法」





海老名総合病院
湯田 健二先生



~患者さまが求めているものとは?~





 もちろん変形性股関節症の患者様は痛みのない楽な生活や、術前後の歩容の変化を求めている。術前・後で大きく言えば歩行が変わる=人生が変わるということになるので、理学療法士としてつきつめていかないといけない課題である。

~股関節疾患の特性~



 股関節伸展・外転・内旋が不動の肢位となり、股関節の内圧が高くなる。さらに前捻角が大きくなってくる。ここ最近の若年者はさらに前捻角が大きくなっているという傾向にある。股関節疾患をみていく上で骨盤のアライメントが非常に重要であり、1次性の変股症は骨盤後傾タイプが多く、2次性の変股症は骨盤前傾タイプが多い。






















~正常歩行と異常歩行~





正常歩行とは大きく定義すると重心の前方移動となるが、その中で下肢の役割は大きく分けて4つ挙げられる。
・衝撃緩衝
・下肢の安定感
・COGを前上方へ変換
・COGの受け入れ







 その中でも、立脚初期のIC~LRで約1cmの高さから落ちる下方への加速度が最大となり、その衝撃を吸収する部分が歩行周期の中で1番大きな筋出力が要求される。股関節機能に着目すると、そのIC~LRでの大殿筋と大内転筋の少しだけの求心性収縮がポイントとなる。これが出るか否かでその後の立脚中期~後期の活動が変わってくる。

 変股症患者の歩行では、股関節伸展機構の破綻が1番のキーポイントとなり、それにより腰背部の過剰収縮や体幹の変位につながってしまい、破行の原因となっている。




























~術後の理学療法~


 歩行の特徴でもある股関節伸展機構の破綻が臥床時にも観察され、代償として骨盤の前傾が生じるケースが多い。そうなると頭部と踵部が床を押してくるような姿勢をとるので、背部の過剰収縮へとつながってしまう。その代償は更なる悪循環を引き起こしていき、変股症患者の多くが訴える大腿外側への疼痛へとつながってきてしまう。
 さまざまな悪循環に対してアプローチを実施例として、大きく4つを挙げる。
・頚部伸筋過剰収縮の抑制
・屈筋の活性化
・股関節中心のイメージ化
・体幹変位の改善















~講義を終えて~

 股関節の基礎から変股症術後の理学療法、さらに歩行機能まで盛りだくさんにお話し頂き、非常にイメージしやすい講義でした。変股症は非常に痛みが伴いやすく、特に術後の理学療法では痛みのケアを大切であることを再度実感しました。先生の熱い想いが伝わり、さらに話が非常にユニークで会場も笑いが絶えず、是非もう1度聞きたいなと思わせるような講義でした。











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