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吉尾雅春 先生


「脳卒中の理学療法 ~原点に返ってみませんか~」

千里リハビリテーション病院 副院長
吉尾 雅春 先生

 今回、千里リハビリテーション病院にお勤めの理学療法士であり、副院長の吉尾雅春先生に講演して頂きました。


~良い環境を提供する~

 まず勤務先である「千里リハビリテーション病院」の紹介をしていただきました。デザインに関するプロデュースをクリエイターとして知られる佐藤可士和さんによって手がけただけあって外観からは、医療施設とは思えないモダンな建物であった。リゾートとして、心の癒しとして、ハード面においても患者さんやご家族を大変配慮した想いが伝わってくるモノでした。
 お話の中で印象的だったのが、「HospitalからHotelへ」と言われた事です。これら二つの語源はHostelから来ており、意味としては「多くの人が集まるところ」だそうですが、良い環境でないと人は集まりません。目的に適した良い環境を提供していくことが重要だという事でした。患者さんを主体とし、人間として当たり前の生活を営み、不必要なバリアフリーは必要ない、実際の生活により近い、活動性や社会参加を促すような環境設定づくりが本当の意味において良い環境を提供するという事でした。


~セクショナリズムの排除~

 「脳は扁桃体がその気にならないと学習しない」。患者さんをその気にさせる為にはどのような病院のあり方が良いのか?
 千里リハビリテーション病院では、全職員が病棟配属になっているそうです。これはセクショナリズムの排除、情報の共有、自由な病棟責任者の選任など、職員一人一人が患者さんに目を向け、職種の上下関係のないチームアプローチが良い環境を提供するという事でした。患者さんやご家族の立場に立った、本当に理想的な病院だという印象を強く受けました。








~脳の仕組みを理解しよう!~

 そして私たちセラピストが良い環境を提供する為には何をしなければならないのでしょうか?
 脳卒中の患者さんを理解するには、最低限の脳の仕組みを理解しておく必要があるという事でした。患者さんの現象だけを見るのではなく、画像をしっかり見て理解し、それらを照らし合わせる事で患者さんに適切なアプローチが提供できる。
私たち理学療法士、作業療法士が原点に返り、脳を解剖学的に理解し、知識を高めていくことで適切な根拠を持って理由付けすることができ、その後の訓練に重要な意味を持つと言うことでした。
 また、早期に機能的な治療用装具を用いることで、股関節・膝関節・足関節の安定性の獲得、抗重力筋への刺激、アライメントの修復、歩行による運動学習などの効果が得られるという事でした。


~講義を終えて~

 全体を通して患者さんにとって何が良い環境なのか、またその環境を作り出す為には理学療法士、作業療法士は何をしなければならないのか、もう一度原点に返ってみる必要があると感じさせられるとてもわかりやすい講演内容でした。





樋口貴広 先生


「行為能力の知覚に基づく空間移動行動の評価」

首都大学東京人間健康科学研究科
樋口貴広先生


身体運動につながる判断は実環境によって決まる!

 脳卒中片麻痺患者における空間移動中の接触原因は半側空間無視、感覚麻痺、運動麻痺があげられる。先生は、その個々の問題より、持ち合わせている能力の判断によって適切な行動をとることができるかに注目されていた。
 健常人は自分の身体の大きさを把握しており、無意識的な判断により日常生活の中で狭い所を通過したりしているが脳卒中患者などの障害者はその無意識的な判断ができない状況にある。

先生の研究によると健常人は二足歩行では適切な判断ができるが、車椅子で移動することになるとわずかな車椅子の移動練習でも適切な判断ができない結果となった。2週間の練習を行っても二足歩行に近づくことはわずかだった。


 私たち健常人は、狭いと判断すれば肩を回旋して通過すればいいので曖昧な判断で問題ないが、車椅子を使用していれば通過できないのであれば迂回しなければならないので厳密な判断が必要である。
 車椅子を使用している障害者でもリハビリテーションをおこなうことによって、実際の通過時の判断が改善された。
 判断能力の低下は障害者だけではなく高齢者にもみられる。跨ぎ越し動作の研究によると加齢に伴い筋力や関節可動域の低下がみられるが判断高は若年者と比較して変化していない結果となった。変化がないことが問題であり、その誤った判断が転倒などのリスクに大きくつながることを指摘されていた。


○脳卒中片麻痺患者における歩行中の視線の役割

 臨床において歩行時に頚部を屈曲させ、下を向きながら歩く片麻痺患者が散見される。

その理由を探るために下肢の視覚情報を妨げた場合の影響の研究を行われた。結果は、歩行速度、体幹動揺共に影響なしという結果が得られた。しかし、追加分析では歩行速度が相対的に低い場合、下肢の視覚情報利用を妨げた場合に体幹動揺が上昇する結果が得られた。運動・感覚麻痺を代償するために麻痺側の視覚情報を利用している可能性が疑われると述べられていた。また、逆に歩行速度が相対的に高い場合、逆に歩行率が上昇する結果となり、前方へ視線を誘導し歩行速度を上昇させる可能性もあるとのことだった。





○講義を終えて

 先生は実際に臨床に関わったことがなく、間接的にしか携わってないとのことだった。普段私たちは何も考えずに人ごみの中や狭いところを通過しているが、車椅子使用者や障害者にとって通過するだけでもあらゆる能力や判断が必要ということ研究データで示してくださった。
患者にアプローチを行う際、機能面などに注目しがちだが、今回のキーワードは知覚の中の視覚ということで、また違う着眼点をおくことも必要であると考えさせられる貴重な講演だった。


松崎哲治 先生


「歩行障害に対する評価と治療」

麻生リハビリテーション専門学校 専任講師
松崎哲治先生


○片麻痺を経験する!

 ベッドの上で体の半分をベッドから出し、支持基底面を少なくして、片麻痺患者の身体感覚を少しでも理解できるような環境設定をする。その状態でタオルを全身にかけるように指示をする。通常の状態より支持面が少ないため、動作も安定せず、中枢部の固定も不十分であるため、四肢遠位の使用もままならない。単純な環境設定ではあるが、「片麻痺」という身体認識能が低下している状態を経験することができるものだと感心させられた。答えがわかれば、たやすいものだが設定を創り上げる松崎先生の「脳力」にグッと引き込まれた印象であった。



○代償性前進維持機能

 片麻痺患者の立位姿勢、歩行様式は「ぶん回し歩行」など一括りにされる傾向にあるが、床反力を膝・股関節の前方へ維持するために、麻痺側骨盤の受動的後方移動、反張膝、足関節背屈運動困難などを生じる。その代償として非麻痺側体幹・骨盤を前方へ回旋させ前進を維持しているという因果関係を明確に説明された。患者さんの呈する症状が原因なのか、結果であるのかその過程を明確にすることでロジックに基づいた臨床推論過程が可能になるのだと感じた。









○脳卒中患者の歩行に必要なこと

 一歩一歩が運動開始、重心の移動の止まることのないエネルギー効率のよい歩行を目指すべきであり、ただ歩くのが目的ではなく、患者の社会への参加を促すことが目的である。そのために、末梢からの情報を受け取りやすい身体アライメントの再構築、リズミカルな運動のパターンの経験の付与、スピード協調性の経験を積ませていくこと、主動作に先行して生じる重心動揺を予測し、姿勢制御をおこなう活動(APAs;Anticipatory postural adjustments)も再構築していくことなどが重要である。APA’sが出現しないあるいは消失する状況とは、外部の固定されたバーを握った堅固な姿勢や、細い梁の上に乗るなどの極めて不安定な姿勢、座位での運動時などである。そのためには、アプローチ時の肢位選択も重要な意味を持つ。


○適応歩行獲得のための徒手的介入

 重要な点として、動作に適した筋緊張の準備、調整や皮膚・筋肉・骨格・関節のアライメント修正をした後に、正しい運動を学習していく。その際のポイントとしては動作に開始と停止を明確にすること。過剰運動は常に軽減しながら、筋の活性化を図る。感覚入力の連続性を考える。Activeな要素を重視することなどであった。正常な歩行に近づけることを重視しながらアプローチを行っているセラピストが多いのではないだろうか。それだけでは解決できない症例が多々あり、その患者を対象として用いた治療を実施し、オーダメイドなセラピーを心がける必要性を今回の講義で気付かせて頂いた。

真鍋清則 先生


姿勢制御と運動制御~脳卒中の治療の考え方~

森之宮病院 
真鍋清則先生


○直立二足歩行と直立二足姿勢

 意志をもって直立二足歩行を行う上で、決定的にヒトが有している機能として骨盤より上部を垂直に保てるかどうかが挙げられる。進化の過程の中で二本脚で立ち、直立二足歩行することにより手を使うことを獲得し、道具の使用、モノを作り出すなどの進化を遂げてきた。さらなる進化の中で、座位姿勢でコンピュータを使う機会が多くなっていく上で、これからどのような姿勢の変化が生じるかは未だ予測不可能である。
 健常人のADL上の動作を再考していくと、整容や更衣など立位で行う動作が意外と多い。しかし、そのような現実があるにも関わらず、臨床の現場では座って様々な動作を獲得しようとするなど、実際の家庭環境とは切り離した考えをしていることが多い。現場の考え方を優先するのではなく、患者の生活する環境や背景を優先した臨床での環境設定を行っていかないと、なかなか在宅での生活に結びついていかない。

○姿勢制御

 姿勢指向性と姿勢安定性のために、空間において身体位置をコントロールすること。姿勢指向性とは適切なアライメントや課題に対する身体と環境の適切な関係の維持する能力であり、重力(前庭系)、支持面(体性感覚)、環境における身体と物との位置感覚(視覚)などの多重感覚が必要不可欠である。姿勢安定性とは俗にいうバランスとして考えられ、支持基底面の中でいかに質量中心をコントロールするかという能力である。
 姿勢保持とバランス保持のために適応させるものであり、さらに身体の動きに適応させるものである。すなわち、運動制御とは運動と姿勢を両方の制御を指すものである。具体的に、運動に必要なメカニズムの調節、協調された機能的運動において中枢神経系が多くの筋と関節をどのように組織するか、環境からの感覚情報からの運動の選択などが挙げられる。




○運動制御

 姿勢保持とバランス保持のために適応させるものであり、さらに身体の動きに適応させるものである。すなわち、運動制御とは運動と姿勢を両方の制御を指すものである。具体的に、運動に必要なメカニズムの調節、協調された機能的運動において中枢神経系が多くの筋と関節をどのように組織するか、環境からの感覚情報からの運動の選択などが挙げられる。





○姿勢・運動制御の統合
 課題(可動性・安定性・操作)、個体(認知・知覚・行為)、環境(調節可能・不可)の3つから成り、その3つの統合として姿勢制御と運動制御が必要となる。多重感覚と身体図式を照らし合わせて姿勢のフィードバック機構として姿勢制御を行う。その姿勢ネットワークの中で、姿勢のフィードフォワード制御を用いることで局所のフィードバックとともに運動制御が成り立つ。
 神経経路から考えて感覚と運動は一体化しており、それぞれ双方向性に作用している。また、姿勢制御において左右共に両側性の支配となり、一側性の支配が優位となるのは末梢のいわゆる手と足だけである。近位部は両側性の支配が圧倒的に優位となる。

○姿勢筋緊張制御系

姿勢や運動の中で、いちいち各運動を意識しながら実施しているわけではない。常に抗重力位の中で姿勢や運動を構成する筋緊張が無意識の内に亢進するようなシステムが形成されている。そのシステムは基底核-脳幹系の促通系と抑制系の相互作用で調節されており、その要素は神経系の要素と非神経系の要素から成る。
 ボバースの世界では、コアコントロールという概念があり、一般的にいわれるコアスタビリティーを元にして、上部の肩甲骨・胸郭の可動性と安定性、下部の骨盤の可動性と運動性・股関節の抗重力伸展を考え、さらに末梢である四肢の選択的な運動を可能にしていくという考え方である。

○講義を終えて
 最近の治療スタイルは背臥位での治療はほとんど用いない。もちろん背臥位で治療する場面もあるが、必ずそこには背臥位でなくてはならない理由が存在する。なぜ、その姿勢で治療するのか?クリニカルリーズニングを考えて治療姿勢を決定していかないといけない。
 最終的にADLにつながっていかないといけないので、抗重力位での制御がいかに行われているかを理解する必要がある。上・下向性の神経経路がそれぞれ何に関係しているのか?中枢ではどのように統合されているのか?など基本的な知識からトピックスまで細かく説明いただき、今まで曖昧だった部分の理解が深まったように感じる内容でした。

弓木野勇次 先生


多機能継手による早期リハへの戦略的展開

出水義肢装具製作所
弓木野勇次先生


○日本に2冊しかない!

日本に2冊しかないと言われている「わが国の義肢装具の歩み」歴史書ともいえる紹介から始まり弓木野先生が義肢装具士になられてからの積み重ねた経験の大きさを感じながら、講義に挑んだ。






○発案のヒントは釣り!?だった!
 前半は装具や継ぎ手の歴史の説明がなされ、その内容のブレイクに差し掛かったとき、今回発案した、継ぎ手のヒントは釣りに使用する鉛(ガン球)をいれる容器を見たときに得られたことを紹介された。

○多機能継ぎ手の特徴はセラピストの思いのままに制御できる。

多機能継ぎ手の特徴は
●角度を自由に設定できる。
●屈伸両方の角度を調整できる。
●角度を決めた上においても、そのエンドフィールを制御できる(鋼球やウレタン、バネなど、材質の変更で可能)。
●可動域を大きく確保できるので、着脱が楽である。
●多機能であるうえに、サイズが小さく軽い。
よって、装具の固定という概念からはずれ、歩行や動作における機能的なエッセンスをこちらの思いで、盛り込めるのが最大の特徴である。

○既成概念をはずせる

装具の役割を考えると、おおむね「固定」が結局のところ大部分を占め、運動や動作はその状況を踏まえたうえで、用いられることが長く続いたようである。そのうち、歩行バイオメカニクスやアプローチの発展と共に、固定として使用された装具は動作や歩行に対して、却って弊害となり「装具はいらない」とまで考えられてきた。
そこで発想を転換したことで、歩行や動作を効率よく行えるようになる、もしくはアプローチのツールとなるような継ぎ手がが生まれたのである。



○実際に触れて、動かして感じた可能性への期待

参加者に実際に触れて頂いたことで、発明した継ぎ手の多機能さや臨床でのアイデアがどんどん生まれている様が垣間見えた。
セラピストの手に渡り、浸透していくのが想像できた時間であった。






講師控室では・・・
実際に講師の先生たちが手にとって、装着して感触を確かめていらっしゃいました。


会場ロビーでは・・・
受講した方々が手にとって、より知識を深めていらっしゃいました。

○最後に
   ものづくりへの情熱と共に・・・
 弓木野先生は幼少期に右上腕を事故により切断された話をされたが、生涯それでできなかったことはないという自負と、趣味である釣りの餌の針つけ、竿の振り方を紹介していただいた。 講義の前夜の懇親会にて、「なぜ、発明のできる人になられたのですか?」という質問に、「片手になってからずっと、何かを考えるという努力を常にしていました」という言葉が返ってきた。 人間はハングリーであるから、目標ができる。その目標にストイックに挑戦する。 満足している状況でも、決して満足することなく夢や目標を実現するために、努力することと思い続けることは未来を切り開くのだと。

 「患者の為に最高の装具を作りたい」という弓木野先生の思いがこの継ぎ手の発明と共に歩きだした。

○義肢装具用関節継手
 平成16年10月 アメリカ、EU国際特許出願
 平成19年    国内特許取得
    20年4月  アメリカ国際特許取得
    21年    厚生労働省義肢装具完成用品部品認可登録





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