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福井 勉 先生


「姿勢制御の理論とその取り組み」

文京学院大学 保健医療技術学部 理学療法学科 教授
福井 勉 先生


~姿勢・動作と運動器疾患~

 運動器疾患を診ていく際に姿勢や動作が原因となるのか、結果として生じているものなのかを明確に判断する必要がある。変性疾患、スポーツ障害、習慣などから姿勢・動作の変化が観察される場合は原因である可能性が高い。逆に外傷、術後、疼痛を有する場合は結果である可能性が高いと考える。

 観察のポイントとして、
・ 支持面との関係を示す。(重心位置の視覚化)
・ 正中軸からの体節の偏位を明確にする。
・ 骨格構造の連鎖関係を明確にする。
・ 骨・関節の配列異常、皮膚、筋膜、筋などの軟部組織の緊張度を明確にする。

こういった運動学、運動力学などを把握して観察することで、どこが(最も)動いている部分なのか、どこが(最も)動かないでいる部分なのかがわかってくる。身体の中で1部分が硬くなって動かないでいると連結して全体を引っ張ってくる。言い換えると、硬い部分がどこなのかがわかって、そこにアプローチすることができれば全体が変化するということである。


~重心の位置を捉える~

 重心の位置を3次元的に捉えなければならない。前額面・矢状面・水平面のどの位置にあるのか、位置がわかればどういった動きになるのかという予測ができる。例えば、変形性膝関節症の患者では後方重心であることが多く、踵に重心が落ちていることが多い。前方への運動が多い人間の動作では非常に不利なものとなる。また、重心が後方にあることで、上半身の回旋方向と重心の移動方向が反対に移動してしまうため、前方への動作において効率的な動作を阻害してしまう因子となる。






~軟部組織で関節モーメントを考える~

 関節モーメントを発揮させるメインとなるものは表在筋であることが多い。では、深層にある単関節筋は何をやっているのか?関節の角度を保つために働いている。例えば歩行における股関節外転筋では、主に大腿筋膜張筋が関節モーメントを発揮させており、中殿筋や小殿筋が外転位を保持させるために働いていると考える。トレンデレンブルグ歩行=外転筋の弱化とよく言われるが、大腿筋膜張筋は過剰に働いており中殿筋・小殿筋が働いていない状態なので、外転筋がすべて弱化しているわけではない。
関節運動の方向はどう決める?
 回転中心と方向制御を考えて、筋力増強訓練において抵抗のかける方向を変化させることで、単関節筋と2関節筋それぞれを狙って収縮させることが可能である。下肢においては、大腿部・下腿部どちらを軸にするかで筋収縮が変化するので、過剰に収縮している筋をさらに鍛えていく結果にならないように、抵抗をかける方向を細かく設定していく必要がある。




~皮膚に関する我々の現在の考え~



・ 可動域最大ではRSTL方向が変化するため、SSTLを考える。
・ 皮膚は弛緩すると運動性を、伸張されると安定性を皮下の組織に与える。
・ 皮膚には生理的に運動する方向がある。
・ 浅層筋収縮には、wrinklesに直角にwrinkleが集まらない方向が筋収縮を促す。
・ 身体全体運動に関わる場合に皮膚の一部分が伸張されないと身体運動に制限を及ぼす。





~講義を終えて~

 2日間のトップバッターとして福井先生に講義をして頂き、今回の研修会のテーマである「膝関節疾患の理学療法」を理解するための基礎を学びました。基礎の中にも、ちょっとした工夫や細かさで違った見解が見えてくるもので、姿勢や動作をもっと細かく解釈していくことで動作分析の見方が変化していくものだと考えさせられました。荷重関節としての膝関節を学ぶ上で、福井先生の講義は今後のベースとなるような内容でもあり、局所である膝関節の講義の理解が深まるような内容でした。





石井慎一郎 先生


「人工関節置換術後の理学療法」
神奈川県立保健福祉大学 准教授

石井 慎一郎 先生


~人工関節置換術の時期~

 従来のリハビリテーションでは、手術を先延ばしにして変形性膝関節症の治療を長期間実施する傾向にある。変形性膝関節症は一度発症してしまうと完治することは考えにくいので、リハビリで引っ張りすぎるのではなく出来るだけ早い段階で手術を勧めることが必要となる。しかし、患者さんとしては手術をすることは怖いもので一大決心を必要とする。手術をすることで痛みが消失する、出来なかったことができるようになる、ということを患者さん同士が良い結果として伝え合っていく良好なサイクルを構築していく必要がある。



~人工関節置換術の特殊性~

 そもそも、人工関節置換術を行うということは、そこに存在する機能障害を改善するということである。そう考えると、術前より絶対に悪化することがあってはいけないし、独歩で歩けていたヒトが杖で歩くようになってはいけない。
 関節の変形を有している患者さんが手術をすることで、O脚であったものが目を覚ますとX脚になっている。形態が変化しても同じ歩行パターンを続けると同じストレスが生じてしまう。患者さんはその新しい状態に対して即座に対応できるとは考え難いので、変化した身体運動に対して新しいボディースキーマを再構築していくことが最も重要なことである。新しい運動を学習するには最低でも6週間かかるという報告もされているため、昨今の何が何でも早期退院という流れでは不十分な面も出てくると考える。






~TKAのデザイン~

 現在主に使用されているデザインは、CR型(PCL温存型)とPS型(PCL置換型)の2つに大別される。その中で、術後の膝関節に求められる機能は屈曲に伴う後方へのすべり運動(Rollback)である。それぞれにメリット・デメリットが存在し、改善すべき点が存在している。どういった手術がなされているのかを把握することで気付くこともあるので、セラピストも知っておくべき分野の1つである。











~Pain control~

 痛覚とは、温覚や冷覚のような単なる感覚ではなく、痛みとは実際の、あるいは潜在的な組織の障害を伴った不快な感覚的、情動的体験である。痛みが長期化すると、さまざまな体験から修飾された疼痛へと変化していき、情動的な学習なども絡んでくることで徐々に複雑なものへと変化していく。痛みとはFirst PainとSecond Painに大別され、その中でもSecond Painは実体のないものなので、信頼関係や情動系が大きく関わってくるため、痛みが長期化しないために早期のうちにどう処理するかが大切である。
SKIN Myofacial CONDITIONING
皮膚の機能の中で、最も重要と考えられるものはセンサーとしての役割である。その中でも、特に表皮細胞ケラチノサイトは感覚受容器として重要であり、特徴的なものとして様々な刺激を受容し、それに見合った化学物質を放出できる自発的なセンサーとしての機能を有している。皮膚からの情報をなくしてしまうとどうなるかというと、自分と外界との境界がわからなる。つまり、どこからどこまでが自分の身体なのかがわからなくなる。だから、セラピーの前処置として皮膚のコンディションを整えていかないとボディーイメージが崩れるなどさまざまな弊害が生じる。


~リンパ流の改善~

 皮膚組織を栄養するリンパ流の機能を高めていくことで、皮膚のコンディショニングを行っていくのであるが、ここで重要となるのが血漿タンパクを毛細リンパ管に流してやるということである。タンパク質が貯留することで起こる悪い事が3つある。
1、 水分が貯留しやすくなる
2、 結合組織になりやすい
3、 実は疲労物質である
 急性期のうちに出来る限り改善していかないと、次に担当したセラピストにそのつけが回ってくるので、早期からアプローチしていく必要がある。



~TKAのROM拡大~

 術後の問題として屈曲可動域の獲得が大きな目標となるケースが多い。その中でも、ポイントとなる項目は以下の5つである。

・ 大腿骨のroll back
・ Medial or Lateral pivot pattern rotation
・ Flexion gap
・ Surface contact
・ 膝蓋骨の可動性



~下肢システムの自己組織化~

 運動課題や環境との相互関係の中で、新しい運動の協調を組織しなくてはならない。つまり、治療で関節の新しい機能を作っていくだけではなく、実際の動作に新しい関節の機能を協調させていく必要がある。術後の患者さんは多数の関節を一体化するように固定したパターンになりがちである。その中で運動の本質を見極め、必要な自由度がしっかりと制御できる機能を獲得していかなくてはならない。重要なのはシステムという下肢を作ることである。









~講義を終えて~

 今回、術後の理学療法についてお話頂き、患者さんの手術という一大決心に対して何とかしてあげたいという石井先生のプロフェッショナルな姿勢に触れ、見習わなくてはいけない部分を多く感じました。それだけ強い想いで1人の患者さんに対して接していくと、考えるべきことも多くあり、考えれば考えるほどまた壁が出てくるものではあるが、複雑なものを1つ1つ丁寧に評価・治療して積み重ねていくしかないということを感じるような講義でした。








国中優治


「変形性膝関節症の原因把握とそのアプローチ」
 ~遺体解剖所見から臨床推論をたてる~

九州中央リハビリテーション学院 専任講師
国中 優治 


~膝OAにおける構築学的変化~

遺体を使った解剖から得られた新たな発見や衝撃の事実が次から次へと明らかになった。膝を解剖して実際にみてみると局所的に関節軟骨が磨耗していることがよくあるという。点々の傷は局所的に圧力がかかっているという裏づけであり、ADL的にみると歩行時のIC、起立時の殿部離床期にパテラが大腿骨に押し付けられ大きな負荷をかけているのではないかと。その負荷により軟部組織も傷つけているという。実際の所見では関節面が通過する組織が毛羽立ったようになっている。ひどいものは関節面が真っ平らになっているとのこと。関節軟骨が全くないものも稀にあるとか。関節軟骨が全くないため大腿骨の凸と脛骨の凹が一致するまで磨耗する症例もある。その他の所見では線が入っている傷が半月板損傷の症例で多いとのこと。原因はパテラの形状にもある。膝を屈伸することによりパテラの突起部位が引っ掻くという原理で傷がつく。その結果半月板に影響を与える。半月板や関節軟骨が磨耗すると膝周囲の靭帯の緊張が弛んでしまう。通常大腿骨と脛骨の間に半月板などの組織が存在していたわけで、その存在したものがなくなると靭帯が弛んでくるのがイメージできる。その結果膝の動揺が生じてくるという。
 講義の中で何かを評価するとき2Dで終わるのではなく、3Dでみていく必要があるというアドバイスがあった。例えば、レントゲンは平面状での評価であり2Dである。実際に触察することで立体的につまり3Dであり、さらに2Dを組み合わせることで初めて全体像が把握できる。

技術者の盲点として脛骨の弯曲ということが例にあがった。脛骨が弯曲しているようだが、筋を排除すると脛骨は真っ直ぐ。筋などの周辺組織によって錯覚してみえることがある。先生の今までの経験上脛骨が弯曲している症例を目にしたことがない。レントゲンで弯曲している脛骨を目にしたことがあるだろうか。筋や組織に惑わされずに実際に触ってみて評価してほしい。

膝運動に伴う半月板の動きは実際どうなっているのだろうか。実際の解剖でみても外側半月板の動きが大きい。内側半月板は撓むような動きをするようだ。外側半月板は動きが大きいので膝屈曲位で実際に触れる。臨床的に応用するなら、外側半月板周囲の組織にダイレクトストレッチなどアプローチをすれば当然、外側半月板の動きが大きくなる。




~膝関節の疼痛と機能解剖学~

 膝の屈伸運動において疼痛で学生時代バイザーによく、「それは膝窩筋が挟まれているから」と言われていたが、解剖学的に大腿骨をいくら動かしても膝窩筋は挟まれない。まず大腿骨に接触することがない。ではその疼痛はどのように生じているのか。それは膝屈曲120°以上の話だが、膝窩筋が伸張されることにより疼痛を生じさせているのではないか。
 では内側に痛みが出る場合は何が原因であるのだろうか。膝屈曲によって圧迫を受ける筋は腓腹筋内側頭と足底筋であるが、腓腹筋内側頭は鋭角に折りたたまれ強い圧迫が生じる。それは腓腹筋内側頭のボリュームが足底筋に比べ厚いからとのこと。
 外側に痛みが出る場合はファベラによるものではないだろうか。レントゲンでみればすぐ発見できる。
 膝屈曲における膝窩部疼痛の結論は膝屈曲によって挟まれるのは腓腹筋内側頭であり、膝窩筋は挟まれることはない。膝窩筋は伸張されるのだ。アプローチは腓腹筋内側頭におこなうべきと述べられる。しかしまれにファベラの存在により膝窩筋がファベラと共に挟まれる可能性もあるかもしれない。アプローチ方法としては、疼痛部位である筋を母指や手掌を使い圧迫伸張し弛緩させる。






~ラテラルスラスト~

女性はなぜハイヒールをはくのか。それは足を長く、そして綺麗に見せるため。
ICは通常歩行はヒールから入る3つのLocker Functionにより推進力を生み出している。ハイヒール歩行は足底から入るのでHeel Lockerが使えずAnkle Locker、Fore foot Lockerのみしか使えずとても効率の悪い歩き方。推進力も小さい。その代償は腰部の筋によって推進力を生み出している。
ハイヒール歩行が上手い人は床反力が膝関節の前方を通過している。
ではなぜ膝を曲げて下手な歩き方をするのか。膝を曲げることで床反力を意図的に膝関節の後方に通過させてそれによって推進力を生み出している。
このハイヒール歩行が膝OAにどうつながるのか。IC時にヒールで接地することで膝屈曲方向への力の成分が大きくなる。すると側方への成分が後方成分に吸収されるのでラテラルスラストが生じにくくなるのではないか。



~膝関節の軟部組織~

拘縮は結合組織が密になり、ヒアルロン酸やコンドロイチンなど滑液が組織の間に浸潤せず、動きが悪くなった状態。機械的刺激により液体成分が一時的に充満し活動性が向上する。それは組織の即時変化。長期的にアプローチすると増殖した架橋や結合組織が正常ストレスにて減少する。

大腿骨頚部骨折後OPEにてCHSなどを施行した症例で膝の屈曲制限がみられる場合がよくあるとのことだ。それは、腸脛靭帯の侵襲にて筋膜が癒着し筋膜の外旋滑動が起きず、膝屈曲が制限されると考える。そのために筋膜の外旋方向滑動のアプローチが必要となってくる。また、大腿筋膜は大腿二頭筋短頭に付着しているので、ダイレクトストレッチなどによりこの筋の伸張も必要となる。


~講義を終えて~

 今回の講義は実際に遺体の解剖おこなわれて得られた知見が主であった。セラピストが体の内部を目にすることはほとんどない。あくまで文献や模型で得られたものをイメージすることによって実際の患者に当てはめていた。しかし、その今まで持っていたイメージが間違っていたということが明らかになり、真の所見を知ることができた。これは実際に体の内部をみてみないとわからないことだ。我々が簡単にはできない解剖を先生がセラピスト代表としておこない、その実際や知見をフィードバックする機会となった。




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