<講演内容>
歩行の神経基盤と治療戦略









森岡周先生
畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター


歩行の視覚運動制御
・皮質下レベル:基底核、小脳
・皮質レベル:運動関連領野(一次運動野、運動前野、補足運動野)、頭頂葉、前頭前野

視線停溜パターンに基づく患者の群分け
■小脳による誤差学習とは?
・小脳疾患患者は外乱の姿勢反応が増加し、筋活動が過剰で延長
・健常人では外乱強度に応じて反応の際の力をコントロールできるが、小脳患者はできてない。
・小脳が外乱強度のフィードバック情報に基づく姿勢制御学習に関与することを示唆

■歩行制御に関わる制御小脳ループ
・プルキンエ細胞→予測と結果の誤差を調整している。
・小脳から小脳核、脳幹下行路を介して脊髄内のニューロン活動を調節

■小脳障害
・leg placement障害→障害領域は歯状核周辺
・バランス障害→障害領域は室頂核および中位核周辺が中心

環境と身体の空間関係の知覚
目的とする動作を行わせる際には、皮質脊髄路を働かせるが、動作開始前に運動の指令・姿勢の保持として関与しているのは網様体脊髄路である。

歩行の神経機構




歩行の視覚運動制御
・骨格筋からの感覚入力
・介在細胞
・交連性介在細胞
・大脳皮質や脳幹からの下行性信号や末梢からの感覚性フィードバックなどにより調節


歩行の視覚運動制御
脊髄:CPGによる周期的な運動出力
脳幹:中脳歩行誘発野による歩行運動出力を引き起こすためのトリガー
小脳: 大脳皮質、CPGからの遠心性コピーと感覚フィードバック情報による位相の制御と適応。
視覚誘導型歩行。
基底核:皮質・基底核ループ、基底核・脳幹系による歩行開始や筋緊張の調節状況に適した歩行
大脳皮質:脊髄レベルの制御の感受性変調視覚情報の処理、歩行開始、体性感覚状況に適した歩行


歩行の視覚運動制御
・教師なし学習:明確な基準がない状態で課題を繰り返し、記憶を生成し記憶と実際の結果を結合していく学習過程。
・強化学習:報酬予測誤差情報によりその運動が強化される学習過程
・教師あり学習:比較照合する基準があり意図した運動と実際にした運動結果の誤差により修正しながら学習していく過程。内部モデルを生成。


歩行の視覚運動制御
・言語フィードバックと必要に応じて徒手フィードバックを行う
・特に練習前半において重要な役割を果たす
・練習の進行に伴い、徐々に頻度を下げる
・できる限り実際の生活場面に近い感覚入力でフィードバックを行う
 ※姿勢・歩行制御は下肢、体幹の固有感覚、体性感覚による制御の割合が高い
・フィードバックを与えるタイミング
① パフォーマンス後すぐに与えない
② フィードバック後すぐに次に試行をしない
③ 運動感覚が残っている間に次の試行をする
・相手のフィードバック情報のキャパシティをみる
・positive feedbackは報酬、モチベーションアップに繋がる


歩行の視覚運動制御
ドーパミン神経細胞は行動を起こすときに得られる期待される報酬の量と行動をとった結果、実際に得られた
報酬の量の誤差【予測誤差】に応じて興奮し、興奮の度合いに比較して、行動を起こすのに関与した神経結合のシナプス伝達効率を向上させる。
正の強化:実施報酬(結果値)—期待報酬(目標値)=+(の継続)
負の強化:実施報酬(結果値)—期待報酬(目標値)=-(の継続)
※セラピストは、前向きに考えられるような目標設定を行う!到達できそうな目標設定を行う。


歩行の視覚運動制御
・練習初期・・・課題を事前に呈示⇒頭の中でリハーサル⇒実施
(例)「あそこまで行ったら、ゆっくり歩いて下さいね」
・練習後半・・・リハーサルなしで実施
 事前呈示なしに急に課題切り替えを求める
 (例)急なストップ


歩行の視覚運動制御
・歩行前の準備状態に対するアプローチ
・フィードフォワード/フィードバック誤差学習
・Automaticnな歩行制御
・感覚の重みづけ
・歩行運動制御の切り替え
・注意の分配(Dual task)


<講演内容>
歩行運動の適応性と学習性









河島則天先生
国立障害者リハビリテーションセンター研究所


歩行の視覚運動制御
・運動の自律性
・左右の対称性
・運動制御の冗長性 
脳幹・脊髄を中心とした自律的運動パターン生成の貢献が大きい

視線停溜パターンに基づく患者の群分け
■中枢神経系の階層でき神経調節
・大脳皮質:運動の計画・発動
・基底核:筋緊張の調節
・脳幹:姿勢の調節・運動のトリガー
・小脳:運動協調・修正
・脊髄:運動出力の生成
・骨格筋:歩行運動の実行

視線停溜パターンに基づく患者の群分け
・歩行動作に伴う求心性感覚情報が繰り返し生じることで、脊髄歩行中枢の活動が惹起される。
・脊髄CPGの活動に影響を及ぼす要因

■研究結果から得られた知見
・左右の脚を交互に動作させることにより、歩行運動出力を高めるような神経回路が脊髄に存在する。
・ヒトの歩行運動中には、上肢、下肢を跨ぐ神経経路を介して運動調節が存在する。

視線停溜パターンに基づく患者の群分け
■階層性制御
・歩行の基本的パターンは脊髄CPGを中枢とした神経回路網で生成
・高位中枢は運動の開始や終了、外部環境が変化した際の対応を請け負う
・運動中の体性感覚情報、視覚情報を利用しながら逐次、運動出力を調節

■CPGの機能的な役割
歩行運動出力を自律的に生成することで上位中枢の負担を軽減させる役割を担う

視線停溜パターンに基づく患者の群分け
歩行運動中の下肢動作を再現することにより、完全麻痺状態にある下肢筋群に歩行周期に同調したリズミカルな筋活動が発現する。歩行様筋活動は、脊髄歩行中枢を介して発現する。

環境と身体の空間関係の知覚
・歩行の適応性⇒脊髄を中心とした歩行調節
・歩行の学習性⇒小脳を中心とした学習基盤

視線停溜パターンに基づく患者の群分け
・トレッドミル歩行(前方への推進力がなくとも歩ける)
・速い速度で歩く(重心の移動が円滑になる)
・ピッチ音を聞く(意図を伴った調節をする)

視線停溜パターンに基づく患者の群分け
▶フィードフォワード制御は、外部環境や運動課題に応じて最適な運動紫苓を出力する上で重要
▶フィードバック制御は、歩行中に生じる外乱に対して脊髄反射系を中心とした即座の調節を行う上で重要


<講演内容>
歩行の視覚運動制御









樋口貴広先生
首都大学東京人間健康科学研究科


歩行の視覚運動制御
・視線は歩行の先導役:歩行中の視線行動
・環境と身体の空間関係の知覚:環境に関する視覚情報は、最終的には体との相対関係を示す情報単位として表現されている(運動空間の身体認知)⇒「隙間通過行動」の研究事例紹介
・運動学習における環境設定の重要性(学習の特殊性)

■移動
移動行動の制御
→目的地への移動
→バランス維持

視線停溜パターンに基づく患者の群分け
歩行中の重要局面においては進むべき方向に視線を向ける
We are going where we are looking

(例)隙間を通過するときの視線
途中:隙間の中心とドアに均等に視線を向ける
通過直前:隙間の中心に視線を向ける

(例)カーブを曲がるときの視線
通過直前:カーブを曲がる1,2秒前からカーブ内側に視線を固定する。
※視線を別の位置に固定させると運動操作に悪影響が生じる。

■なぜ進行方向に視線を向けるのか?
①オプティックフローの利用
・進行方向→目標地点に視線中心を合わせることで、視覚的に歩行の進行方向をコントロールできる。
・歩行速度や物体との衝突自汗→拡大率から計算
②周辺視野の利用
→進行方向に視線を固定することで、重要な情報の多くを周辺視野で捉えることができる。

視線停溜パターンに基づく患者の群分け
(歩行通路に障害物がある、不整地などの悪路)
・数m前方で障害物などの視対象を捉える
・足元の周辺視野を利用している
※2歩先の視覚情報があることの意味(推進の効率を損なわない)
→眼の動きが頭部・体幹の動きに先行!
歩行中の方向転換時は、眼球⇒頭部⇒体幹の順に回転運動が起きる。

視線停溜パターンに基づく患者の群分け
(対象:発症後3ヶ月以上経過し、歩行自立。高次脳機能障害なし。)
・片麻痺患者群は歩行時間の約70%にわたって床を見ている
・床2m胃内に視線が停溜する患者は、歩行速度が低いなど、歩行機能低い傾向がある
※非麻痺側方向のターンで視線・頭部の遅れがある。骨盤の回旋後に視線と頭部が遅れて回旋している。

視線停溜パターンに基づく患者の群分け
密集の中で接触を回避するには、通り抜けようとする隙間の大きさ(環境)と、自分の身体の大きさ(身体)との関係を正確に知覚し、適切な回避行動を選択しなければならない。

・健常者は歩行中に、隙間と身体との空間関係を適切に知覚し、最適な回避動作を選択している。
・そのような空間関係に対してどのような行動をとるかについては潜在的なルールに基づく。

視線停溜パターンに基づく患者の群分け
・加齢や障害によって身体特性や移動特性に変化が生じても、環境との空間関係は適切に知覚されるのか?
・こうした関係性をリハビリにより新たに獲得させる場合、そのような方法が可能なのか?

■実環境に近い場面での歩行訓練の重要性
・加齢や障害によって身体特性や移動特性が動的に変化した場合には、実環境下で環境との空間関係を再学習させる機会を与えることが必要。
・リハビリの病院だからこそバリアを作る(吉尾雅春先生)

■歩行中のデュアルタスク能力
・他者と会話しながら歩ける
・一部の高齢者の場合、歩きながらバランスを保つこと自体に努力が必要


<講演内容>
歩行の動的姿勢制御のバイオメカニクスと理学療法









石井慎一郎先生
神奈川県立保健福祉大学


歩行の視覚運動制御
直立二足歩行によるロコモーションの変化
体幹の鉛直配列(腰椎の前彎)
上肢の解放 
股関節の伸展

視線停溜パターンに基づく患者の群分け
■体幹の抗重力伸展機能  

コアコントロール
・体幹は歩行開始に先立って姿勢コントロールを行う能動的な構成要素
・体幹を股関節と下肢の上に位置させ運動することをコントロールする
・身体末梢部の運動性のために、力学的並行の崩れを予測して反応し、身体近位部の安定性を保障する
・良好なコアコントロールは上肢と頸部の自由度を保障し、かつ下肢の体重支持を促進する
※多裂筋と腸腰筋の関係性(脊柱の分節に付着しており、腰椎をスタビライズしている)
→多裂筋が腰椎のアライメントを調整している。腰椎の肢位によって腸腰筋の作用が変化する。

■下肢の抗重力伸展
・身体重心の前方への加速 ・殿部離床時の体幹の傾斜とCOP位置の変化  
→踵が地面に接触していると伸展筋群の活動を高める   
前脛骨筋の作用により脛骨の前方傾斜を維持し、大腿四頭筋の作用より大腿骨の前方傾斜

■下肢の抗重力伸展と上方への重心移動
立脚中期の膝関節の伸展
・位置エネルギーを高め、重力を利用した効率的な歩行を実現する
・CPGによる下肢の伸展と屈曲の切り替えを可能にする
・膝関節の負担を最小にする
※ハムストリングス
 →ハムストリングスのレバーアームが股関節が膝関節より大きいため、ハムストリングスの収縮時によって膝関節屈曲よりも股関節伸展の方が勝り、結果として膝伸展が起こる。すなわちCKCではハムストリングスは膝関節伸展筋として作用する。

■股関節の伸展
二足歩行における股関節伸展の重要性
「歩行とは、一方の下肢を後方に残す課題である」  立脚後期で股関節屈曲筋の筋紡錘が長く伸張されることで、単シナプス性の伸張反射が生じ、股関節の屈曲運動相がスタートする。  股関節からの求心性信号はCPGに対して直接入力を持つ。


平成26年3月30日
運動支援の心理学


平成26年2月15.16日
福岡/極める下肢運動器疾患のリハビリテーション


平成26年2月16日
片関節の機能解剖と疾患・実際の治療について