脊柱から下肢へ、下肢から脊柱へ~下肢とコアが連鎖する必要性~
<講演内容>
変形性股関節症の体幹と股関節の機能連鎖-姿勢・動作の臨床的視点-
加藤浩先生
九州看護福祉大学大学院
運動連鎖の機能的要素には骨格構造機能・神経機能・筋出力機能の3つが存在する。
<骨格構造機能>
脊柱・股関節の骨格構造機能は、骨盤の前傾化・後傾化の原因となり、更に股関節周辺部に疼痛が加わることで経年的に股関節と、骨盤・腰椎部の柔軟性は低下し最終的に異常な姿勢アライメントで固定化される。→脊柱の機能破綻へ繋がる。
<筋出力機能>
強さの要素:筋力(筋張力)の問題
病期の進展に伴うtypeⅡ線維の著名な委縮が大腿骨頭の外上方偏移を起こす。
時間の要素:反応時間の問題
1歩行周期は約1秒。LRは0.12秒。
大殿筋の歳代収縮を発揮する必要があるのはこの短い時間である。
空間の要素:筋出力バランスの問題
空間の要素には骨盤のアライメントが影響する。
骨盤傾斜角度が股関節外転筋群の筋出力バランスに及ぼす影響は、
骨盤傾斜角度10°のとき大殿筋:中殿筋=3:4
骨盤傾斜角度20°のとき大殿筋:中殿筋=4:3と比率が逆転する。
→股関節屈曲拘縮患者のLR時には大殿筋は収縮力を発揮できない状態にある。
→つまり筋力向上だけでなく、出力しやすいアライメントを作ってあげることが重量である。
脊柱疾患と股関節疾患は相互に影響を及ぼし合い、その病態は複雑化する。
変股症と骨盤傾斜・脊柱疾患はエビデンスが認められており、下肢症状が存在する患者の診断をする場合にそれが股関節に起因するのか、脊椎に起因するのかを鑑別することが重要である。
<講演内容>
歩行動作の経済性と制御機構
松原誠仁先生
熊本保健科学大学・大学院 松原誠仁先生
・運動の自律性
・左右の対称性
・運動制御の冗長性
脳幹・脊髄を中心とした自律的運動パターン生成の貢献が大きい
動物と機械における制御と通信のことをいい、心の動きから生命や社会までをダイナミックな制御システムとして捉えている。
左右の上前腸骨棘を結んだ中点と左右の後上腸骨棘を結んだ中点が交わる点
・重心高:位置エネルギー
→観察によって推定でき臨床で活用できる
・重心速度:並進運動エネルギー
・角速度:回転運動エネルギー
→観察によって推定不可能
角速度ベクトルは剛体の回転と共にその方向、大きさともに変化してゆき、その結果として力学的な効果を生ずる。
基本動作は誰がどこで行っても同じように見えるし、やり方がいつもと違えば、傍から見て敏感に気がつく。
→なぜ?
可能な運動の組み合わせから特定の組み合わせだけが選択されている可能性がある。
→冗長性
→動作を可能にする運動の組み合わせを動作の「運動パターン」とすると「柔軟」でも「自由」でもなく「拘束」されている。
→運動の協調性
→身体に機能障害が生じた場合、運動の協調性が乱れ、特定の運動パターンから逸脱する。
<講演内容>
歩行の視覚運動制御
樋口貴広先生
首都大学東京人間健康科学研究科
・視線は歩行の先導役:歩行中の視線行動
・環境と身体の空間関係の知覚:環境に関する視覚情報は、最終的には体との相対関係を示す情報単位として表現されている(運動空間の身体認知)⇒「隙間通過行動」の研究事例紹介
・運動学習における環境設定の重要性(学習の特殊性)
■移動
移動行動の制御
→目的地への移動
→バランス維持
歩行中の重要局面においては進むべき方向に視線を向ける
We are going where we are looking
(例)隙間を通過するときの視線
途中:隙間の中心とドアに均等に視線を向ける
通過直前:隙間の中心に視線を向ける
(例)カーブを曲がるときの視線
通過直前:カーブを曲がる1,2秒前からカーブ内側に視線を固定する。
※視線を別の位置に固定させると運動操作に悪影響が生じる。
■なぜ進行方向に視線を向けるのか?
①オプティックフローの利用
・進行方向→目標地点に視線中心を合わせることで、視覚的に歩行の進行方向をコントロールできる。
・歩行速度や物体との衝突自汗→拡大率から計算
②周辺視野の利用
→進行方向に視線を固定することで、重要な情報の多くを周辺視野で捉えることができる。
(歩行通路に障害物がある、不整地などの悪路)
・数m前方で障害物などの視対象を捉える
・足元の周辺視野を利用している
※2歩先の視覚情報があることの意味(推進の効率を損なわない)
→眼の動きが頭部・体幹の動きに先行!
歩行中の方向転換時は、眼球⇒頭部⇒体幹の順に回転運動が起きる。
(対象:発症後3ヶ月以上経過し、歩行自立。高次脳機能障害なし。)
・片麻痺患者群は歩行時間の約70%にわたって床を見ている
・床2m胃内に視線が停溜する患者は、歩行速度が低いなど、歩行機能低い傾向がある
※非麻痺側方向のターンで視線・頭部の遅れがある。骨盤の回旋後に視線と頭部が遅れて回旋している。
密集の中で接触を回避するには、通り抜けようとする隙間の大きさ(環境)と、自分の身体の大きさ(身体)との関係を正確に知覚し、適切な回避行動を選択しなければならない。
・健常者は歩行中に、隙間と身体との空間関係を適切に知覚し、最適な回避動作を選択している。
・そのような空間関係に対してどのような行動をとるかについては潜在的なルールに基づく。
・加齢や障害によって身体特性や移動特性に変化が生じても、環境との空間関係は適切に知覚されるのか?
・こうした関係性をリハビリにより新たに獲得させる場合、そのような方法が可能なのか?
■実環境に近い場面での歩行訓練の重要性
・加齢や障害によって身体特性や移動特性が動的に変化した場合には、実環境下で環境との空間関係を再学習させる機会を与えることが必要。
・リハビリの病院だからこそバリアを作る(吉尾雅春先生)
■歩行中のデュアルタスク能力
・他者と会話しながら歩ける
・一部の高齢者の場合、歩きながらバランスを保つこと自体に努力が必要
<講演内容>
歩行の動的姿勢制御のバイオメカニクスと理学療法
石井慎一郎先生
神奈川県立保健福祉大学
直立二足歩行によるロコモーションの変化
体幹の鉛直配列(腰椎の前彎)
上肢の解放
股関節の伸展
■体幹の抗重力伸展機能
コアコントロール
・体幹は歩行開始に先立って姿勢コントロールを行う能動的な構成要素
・体幹を股関節と下肢の上に位置させ運動することをコントロールする
・身体末梢部の運動性のために、力学的並行の崩れを予測して反応し、身体近位部の安定性を保障する
・良好なコアコントロールは上肢と頸部の自由度を保障し、かつ下肢の体重支持を促進する
※多裂筋と腸腰筋の関係性(脊柱の分節に付着しており、腰椎をスタビライズしている)
→多裂筋が腰椎のアライメントを調整している。腰椎の肢位によって腸腰筋の作用が変化する。
■下肢の抗重力伸展
・身体重心の前方への加速 ・殿部離床時の体幹の傾斜とCOP位置の変化
→踵が地面に接触していると伸展筋群の活動を高める
前脛骨筋の作用により脛骨の前方傾斜を維持し、大腿四頭筋の作用より大腿骨の前方傾斜
■下肢の抗重力伸展と上方への重心移動
立脚中期の膝関節の伸展
・位置エネルギーを高め、重力を利用した効率的な歩行を実現する
・CPGによる下肢の伸展と屈曲の切り替えを可能にする
・膝関節の負担を最小にする
※ハムストリングス
→ハムストリングスのレバーアームが股関節が膝関節より大きいため、ハムストリングスの収縮時によって膝関節屈曲よりも股関節伸展の方が勝り、結果として膝伸展が起こる。すなわちCKCではハムストリングスは膝関節伸展筋として作用する。
■股関節の伸展
二足歩行における股関節伸展の重要性
「歩行とは、一方の下肢を後方に残す課題である」 立脚後期で股関節屈曲筋の筋紡錘が長く伸張されることで、単シナプス性の伸張反射が生じ、股関節の屈曲運動相がスタートする。 股関節からの求心性信号はCPGに対して直接入力を持つ。